2002年 史上最悪の黄砂に見舞われた韓国
李 宗炫(市民環境研究所)
1.史上最悪の黄砂
去る3月21日、かつてない大規模な黄砂が韓半島全域を襲った。黄金色の黄砂に覆われた世界は恐ろしいほど無残であった。視界が極端に悪くなり、飛行機の運行が中断され、街頭の露店商や商人達は商売を放棄せざるを得ない状況であった。畜産農家は口疫病が黄砂に乗って拡大するのではないかと神経をすり減らし、またそれは埃にわずかの汚染でもあれば不良率が高くなる半導体等、電子製品生産ラインにおいても同様であった。朝、出勤途中の市民からは、この日学校に送り出した息子、娘を心配する表情がありありと伺えた。全く無防備の状態で受けた史上最悪の黄砂大乱であった。しかし今回の黄砂大乱は、実は予測されていたものであった。ここ数十年間韓半島における黄砂の発生日数は年々増加し、90年代に入ると急激に増加してきた為である。(表1)

表1 過去30年間の大韓民国主要都市における黄砂発生日数
2.予測されていた自然災害、不吉な環境問題
黄砂は三国時代の歴史記録にもある昔からの自然現象である。一部の学者達は、毎年春になると繰り返し現れ、周期的に増減する一種の気象現象であるとも主張する。しかしこれは台風と並んで私たちの日常生活にとてつもない被害を与える自然災害である。今まで生活の中で繰り返されてきた自然災害であるということから黄砂はある程度予測できると言えるが、この3、4月に発生した黄砂は大気汚染測定が始まって以来、最も大規模な黄砂であった。
最近になって黄砂発生規模と頻度がますます増加していることから推測して、黄砂をただの自然災害とみなすことはできない。なぜならば黄砂が深刻化する理由が気候の変化による干ばつの頻発、黄砂発生地帯での砂漠化の増大、過剰牧畜による草原の砂漠化などの結果として知られているからである。
したがって黄砂に対する対処案も、短期的には予測できる自然災害に備え被害を最小にとどめるため、長期的には環境問題を予防するための方向でたてる必要がある。
3.黄砂警報制度の導入
すでに発生した黄砂を避ける方法は無い。したがって黄砂による被害を最小限にとどめる事が何よりも重要である。この為の方策として黄砂予報、及び黄砂警報制度が必須である。台風が発生した場合、経路を予報するように黄砂にもこのような対策をたてる必要がある。
また、黄砂が引き起こす様々な被害の中でも、健康に及ぼす被害が最も浮き彫りにされている。原因は黄砂に含まれた直径
10μm(1/100㎜)以下の浮遊粒子状物質である。一般的に浮遊粒子状物質の濃度が高くなると3~4日後には急性死亡率が増加することが判明している。したがって黄砂による健康被害を最小限にとどめる為には浮遊粒子状物質濃度を基準として段階別に警報を発令し、各段階ごとに健康保護の為の行動要領を市民に知らせ、勧告する必要がある。
韓国ではこの4月から黄砂警報制度を施行している。黄砂警報制度は“‘黄砂情報”、“黄砂注意報”、“黄砂警報”等、3段階に区分されている。1段階“黄砂情報”は1時間あたりの浮遊粒子状物質濃度が300μg/m3以上の時に発令し、高齢者、子供、呼吸器疾患者の室外行動活動を自粛するように勧告する。2段階“黄砂注意報”は1時間あたりの浮遊粒子状物質濃度が500μg/m3以上の時に発令し、高齢者、子供、呼吸器疾患者の室外活動を禁止する勧告である。3段階“黄砂警報”は1時間あたりの浮遊粒子状物質の濃度が1000μg/m3以上の時に発令し、高齢者、子供、呼吸器疾患者に外出禁止を勧告、幼稚園、及び小学校の室外活動(運動、室外学習)禁止、授業短縮、休校等の学童保護措置を講じるよう勧告する。一般人に対しても室外活動禁止、及び外出の自粛を勧告する。
4.再び押し寄せる最悪の黄砂、穴のあいた黄砂警報制度
去る3月、史上初の黄砂大乱後に急場しのぎの対策として黄砂警報制度と休校令措置が施行された。しかしそれから何日も経たない4月8日、1時間平均にして浮遊粒子状物質濃度が2066μg/m3にものぼる黄砂が再び押し寄せ、当初から“黄砂警報”が発令され、休校措置を勧告されたにもかかわらず、教育部は適切でない場所で測定した気象庁資料を根拠に黄砂警報制度の趣旨を全く無視する登校措置の決定を下した。言論の場においても“黄砂警報”の発令報道がありながら教育部が登校措置をとった事についての適切な問題提起がなかった。結局、黄砂警報制が施行された後でも市民は黄砂をまたもや無防備のまま受けるしかなかったのである。
あとの祭りのような対応を繰り返さない為には、台風に備えて自然災害対策班を設立し被害を最小限に押さえるように、黄砂についても政府合同対策班を設立する必要があるとの提起がなされた。また政府当局は黄砂を自然災害対策法と農漁災害対策法の管理対象に含める為、法律の改訂を推進すると発表した。
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こうして2002年の春が過ぎ、ワールドカップの季節が訪れ、すべての国がワールドカップの雰囲気に包まれ始めた。2002年日韓ワールドカップを環境ワールドカップにする為の政府の努力は本当に涙ぐましいものであった。ワールドカップの競技がある日には強制車両2部制(車両ナンバーの末尾数字を偶数と奇数で分け片方ずつ走行を禁止する)を実施し、ガソリンスタンドに「昼間の給油はやめましょう」という広告文を貼り出した。環境部長官は雨さえ降ってくれれば環境ワールドカップは可能であると述べている。
ワールドカップが黄砂の降る春に開催されなかったのは本当に幸いであったが、一方では外国の客を迎え入れるためにつぎ込んだ努力の半分でも黄砂に備えていたならば、すべての国民を黄砂の恐怖に陥れる事は無かっただろうという指摘もあった。来年になれば再び黄砂が訪れ、問題は依然としたままである。ワールドカップ競技が行われる日には市民を強制車両2部制に追いやっていた韓国政府が来年は黄砂に備え何を準備し、またそれが今年よりどれだけ変わるか今後注目すべき点である。 |
5.残された課題
何よりも黄砂発生を根本的に抑制する為には国際協力の強化が何よりも切実である。黄砂による被害はただ一つの国の支援努力では解決できない問題である。中国では砂漠化速度が60年代では毎年1560km2、90年代に入ってからは2460km2と加速してきている。2001年中国東北部地域で発生した黄砂の56%がモンゴルで発生し、モンゴルは全国土の90%が砂漠化の危機に瀕している。砂漠化問題を地球規模の問題とするならば黄砂問題はどちらかが加害者で、どちらかが被害者であるという認識は現実を反映することはできず、また問題解決に何の助けにもならない。それよりも黄砂問題をきっかけにモンゴルを含めた北東アジア4ヶ国が環境共同体であるという自覚をしっかりと持たなければならない。
二番目に、黄砂による被害を最小限にとどめるためには事前予報の対策をしっかりと立てる必要がある。この為には北東アジア4ヶ国国間の協力が必要である。モンゴルと中国で黄砂がいつ発生したか、規模はどのくらいか、いつ頃韓半島に届くのか知ることのできる予報体系を確立させる為、各国共同の努力が要求されている。
三番目に、現在の黄砂警報制度を早急に補完する必要がある。現在の黄砂警報制度においては集団的な措置事項として幼稚園と小学校の授業短縮、休校等の学童保護措置のみにとどまっている。生物学的に弱者とされている高齢者、子供、呼吸器疾患者に対する保護処置はただ言葉で勧告するのみで実効性がある対策はまだまだ不十分である。また、わが国の小学生や中学生のそれぞれ13%程度が喘息を患っている。黄砂に含まれた浮遊粒子状物質が喘息患者の症状を憎悪させうることから、中高等学校や職場でも特別な事前措置が必要な心肺疾患者に対する現況をあらかじめ把握するなど、事前措置を具体的に講じる必要がある。屋外作業者、露天商、交通指導の警察管等、道路周辺や屋外で主に活動する人たちは黄砂に無防備のままさらされるしかない社会的弱者であり、彼らを配慮する対策についても検討しなければならない。
四番目に、市民の健康を脅かしている浮遊粒子状物質を含めた日常的な大気汚染予報制度を導入する必要がある。史上最悪の黄砂大乱後、黄砂警報制度を導入することで代表的な大気汚染物質である浮遊粒子状物質に対する一般市民の警戒心が強くなったことが不幸中の幸いである。しかし目に見える黄砂とは別に、黄砂がない日でも目に見えない浮遊粒子状物質が市民の健康を脅かす一番の要因であると分かっているにもかかわらず、頻繁に大気環境基準を超過しているのが実情である。特に事前予報及び警報を通して特別に管理しているオゾンよりも、浮遊粒子状物質による追加的な急性死亡者数が多いという研究結果もでている。浮遊粒子状物質を含めた日常的な大気汚染問題に対する策の一つとして大気汚染予報制度の導入を積極的に推進する必要がある。
国内ではこの春の黄砂大乱のため、さらに強化された大気汚染管理による特別法制定を急ぐ環境部の努力が関心を集めている。より深刻化する黄砂と大気汚染問題は一見別の問題として見ることもできるが、実際は急速な産業化と都市化によるエネルギー使用や限度を超えた土地利用形態が生んだ結果として見ることができるためである。
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